賃貸経営で必要な「修繕」について考えよう

計算機と現金、間取り図面により修繕費用を表したイメージ画像
賃貸物件への不動産投資では、入居者から継続的に家賃を得ることが目的となります。しかし、建物は居住や経年によって必ず劣化するため、修繕をしていかなければなりません。修繕や管理が十分にされていない物件では、入居希望者が現れず空室状態になってしまうこともあります。そうならずに投資効果を上げていくための、賃貸物件の「修繕」とはどのようなものかを考えていきましょう。

入居者確保に必要な「修繕」

必要な修繕がされていないために住戸内の壁紙に汚れや剥がれがあるとか、水回りに水アカやサビ・カビ目立つといった状態では、物件見学者の入居希望意欲を奪いかねません。加えて外壁や屋根にヒビや欠損があると、その建物の第一印象が悪くなるばかりか、雨漏りなど住宅としての機能そのものに疑いを持たれてしまいます。

 

こういった理由によって入居者が見つからない場合、家賃収入が得られないので、当然投資収益は下がってしまいます。入居希望者に魅力を感じてもらい入居を促すためには、積極的かつ計画的に修繕を行い、常に物件を良い状態にしておく必要があります。

 

賃貸物件では、1~2年の短期間で入居者が入れ替わることがあります。入居者が変わるたびに大規模な修繕やリフォームをする必要はありませんが、原状回復の施工範囲を基本として、内装や設備への十分な点検や修繕をしておくことは必要です。入居希望者は、内見時にオーナーが思っている以上に細かい部分を見ているものです。点検時は、できるだけ細部まで気を配りましょう。

「修繕」の種類に分けて考える

集合住宅の上にさまざまな修繕個所を記したイメージイラスト

賃貸経営における修繕は、その頻度・内容によって種類を分けて考えると、対応の仕方がよくわかり、費用の準備もしやすくなります。日常的な修繕から大規模修繕まで、三つに分類してそれぞれの内容をまとめました。

 

【日常的な修繕】

日常の清掃や管理業務の中で見つかる不具合や、損傷などに対応する修繕です。住戸内(専用部分)と住戸外(共用部分)で分けて見ていきましょう。

 

住戸内では、主に備え付けの設備機器の不具合が挙げられます。例えば、給湯器や空調の動作不良などです。ガラスの破損などもあります。これらは生活そのものに支障が出ることなので、入居者からの連絡により修繕案件として発生し、至急の対応が求められます。

 

住戸外では、門扉の開閉不具合や門灯など屋外灯の破損などがあります。切れた電球の交換を修繕(費)とするか消耗品費とするかは、帳簿上での任意設定になります。

 

基本的には、どちらも突発的に発生する不具合に対する修繕です。生活に不便が生じるものが多いので、できるだけ早い確認・手配・施工が必要です。ある程度の発生件数を想定して、修繕予算を確保しておくとよいでしょう。

 

【退去時に発生する修繕】

基本的には「原状回復」のための修繕施工になります。従って、借主が専用していた住戸内に限定されます。主な修繕内容としては、壁・天井クロスの張替え、畳交換、床張り替え(フローリング他)があります。この他、使用期間や劣化の度合いにより、浴槽や便器の交換、水栓・給湯器の交換、空調機器の交換、調理器具の交換などが必要になります。また、ハウスクリーニングは必ず行い、住戸の鍵交換も必須となります。

 

民法の規定(第621条)では、借主は住居を通常使用していたならば、その中で生じた住居の損耗や経年による劣化については原状回復義務を負わない、とされています。しかし、これは任意規定なので、貸主と借主の負担割合などについては、賃貸借契約において自由に定めることができます。とはいえ、あまり借主の負担を大きくすると入居を避けられてしまうので、家賃とその他条件との兼ね合いを熟考して決めましょう。

 

いずれにしても、契約期間満了ごとに退去するという前提で、修繕費用(原状回復費用+アルファ)を確保しておくくらいが安全でしょう。

 

【長い周期で必要になる大規模修繕】

大規模修繕は、10年・15年など、長い年月を経て生じる老朽化や不具合に対して行う点検・工事のことです。一般的にはマンションで実施されるイメージですが、ここでは各物件種別についても、大規模修繕の観点を用いて見ていきます。

 

「一戸建て」は、建物外観と外構が修繕対象になります。まず建物の外観部分では、外壁の修復・塗装、屋根の修復・葺き替えが大きな施工内容になります。外構については、塀や門扉、駐車スペース、アプローチ、植栽のメンテナンスの他、水回りをはじめ配管の検査・修理が考えられます。

 

修繕には一定の工期が必要になるので、借主が居住中に施工するか、退去のタイミングで一旦空室期間を設けて一気に修繕してしまうかは、計画次第です。空室の状態で施工する場合は、構造部分の点検や住戸内の修繕もまとめて施工できるメリットがありますが、当然その間家賃収入は得られません。

 

「アパート(一棟)」は、建物外観と共用部分、外構が修繕対象になります。外壁や屋根の他、エントランス、階段、廊下、駐輪場といった箇所が対象となります。鉄部塗装などが必要になる場合もあり、サビや腐食が進んでいると交換の可能性もあります。給水システムの点検・メンテナンスも必要でしょう。

 

各住戸については、例えば給湯設備の使用期間が同じで、相当年数が過ぎているならば一斉に交換してしまうというやり方もあります。予算とそのときの状況による判断になります。

 

大規模修繕は高額になるので、費用は計画的に積み立てていくことが必要です。それにはある程度の精度を持って、修繕範囲と施工内容・時期を予測した計画策定が必要です。

 

「マンション(区分所有)」では、マンション管理組合が策定している長期修繕計画に沿って大規模修繕が行われます。修繕費用は、区分所有者が毎月支払う修繕積立金によって賄われます。従って、大規模修繕が行われる時点で管理組合の理事などになっていない限り、自ら修繕を手配することはありません。

 

ただし、マンション管理組合による大規模修繕は、建物外観・共用部分が施工対象ですから、住戸内(専有部分)に関しては、長期間使用での損耗による修理・交換は自分で手配する必要があります。特に水回り箇所の交換(システムキッチン、ユニットバス、トイレなど)は高額になりますので、別途費用として積み立てておくことをおすすめします。

修繕計画を立てる際の注意点

【修繕計画は見直しが必要】

せっかく修繕計画を策定しても、そのまま放置しては意味がありません。特に長期修繕計画は、日常のメンテナンスや短期での修繕対応によって、変更が生じます。こまめなメンテナンスによって大規模修繕の必要時期が延びたり、修繕箇所が減ったりするのはよくあることです。

 

長期修繕計画は、一般的に5年をめどに見直しが必要だと言われています。損耗・劣化がどの程度進んでいるかを確認して、計画を修正していきましょう。それによって費用の積み立て状況も変わってきます。見直しのスパンは所有物件の状況により適宜判断していきましょう。

 

また、原状回復のための「修繕」だけでなく、入居者にとってより有益な環境にする「改修」も検討するといいでしょう。時代の変化や技術の進歩によって、社会のニーズは変わっていくものです。物件の競争力を強め、資産価値を高めていくためには、新たな設備や機能の導入は大切です。

 

【分譲マンションの長期修繕計画を参考に】

分譲マンションで策定される長期修繕計画は、国土交通省が示している「長期修繕計画作成ガイドライン」が基になっていることが多いです。物件の種別は違っても、修繕計画を考えるときに、基本的な策定の仕方や項目など参考にできることがあるので、一度確認してみることをおすすめします。

不動産お役立ち情報